TEACHER'S COLUMN

時代とともに移り変わるジェンダー的な視点から見る日本独自の温泉文化のあり方

井口 由布 先生

アジア太平洋学部 / 文化・社会・メディア分野

#ジェンダー #ステレオタイプ

あなたは温泉のポスターと聞いて、どんなものを思い浮かべますか。多くの方が、若い女性の姿をイメージするのではないでしょうか。こうしたステレオタイプ化された温泉のイメージに、ジェンダー学は深く関わっています。このポスターはメイルゲイズ(男性的目線)という理論に当てはまるもので、男性が見る主体、女性が見られる客体として扱われます。性に対するイメージは無意識に浸透しており、例えば多くの洗剤のCMには、家事をする女性の姿が描かれます。最近はあえて男性が家事をするCMも見られますが、どちらも性別ごとの役割が共通認識として存在します。

温泉という切り口からは、ジェンダー学に関連するさまざまな事例が浮き彫りとなります。そもそも性的な規範は、国や時代、社会構造によって異なります。日本人は体をオープンにする抵抗感が薄いとされていますが、ヨーロッパでは同性や家族に対してもプライベート・パーツはみせません。また今では男湯と女湯がわかれているのが一般的ですが、江戸時代は混浴が多かったようです。

ジェンダー的な観点から見る温泉は興味深いテーマですが、まだまだ研究分野としては発展途上です。一方で、LGBTやジェンダー問題に対する学生の関心は高まっていると感じます。特にAPUにはさまざまな国の学生が集まっており、それぞれ経験や文化的な背景も全く異なります。ジェンダーは机上のものではなく、私たちの生活と結びついています。まず当たり前のような男女のイメージを疑うことが、ジェンダーの理解につながるのではないでしょうか。

2005年からAPUでマレー語・インドネシア語の教師として勤務した後、2008年より現職。専門は地域研究やジェンダー研究、カルチュラル・スタディーズ。講義では雑誌、映画、ドラマ、広告を例に挙げながら「当たり前」を問い直す力を養っている。