TEACHER'S COLUMN

「持続可能な観光」には何が必要なのか
現地を見てこそ教室での学びが実感を伴う

VAFADARI M. Kazem 先生

サステイナビリティ観光学部 / ランドスケープ科学、環境農学、文化人類学、民俗学、人文地理学

#農業遺産 #アグリツーリズム

私が専門とする環境経済学は観光との関わりが深く、農業観光やフードツーリズム、コミュニティづくりなどを通して、環境保全や地域活性化について研究しています。

2022 年には世界農業遺産である石川県能登半島で観光・農村開発についてのフィールド・スタディを行いました。能登半島のような日本の伝統的な農村風景は、過疎化や高齢化など多くの問題 に直面しています。このプログラムでは能登半島における地域社会と行政の取り組みに焦点を当て、環境と伝統的知識の保全、農業と観光による地域活性化の取り組みについて学んでいきます。現地に赴く前に事前授業を行い、その地域の文化や経済を調べ、世界農業遺産(GIAHS )としての将来性について探ります。フィールド・スタディでは世界農業遺産に関わる石川県庁や能登で生活する地域コミュニティへのインタビュー、重要地域の視察を行い、その調査内容を事後レポートにまとめてもらいます。

過去には“ 世界一美しい海岸” と言われる世界文化遺産があるイタリアのアマルフィ海岸に学生と一緒にフィールド・スタディに訪れました。険しい崖の斜面にカラフルな住居が建ち並び、風光明媚な眺めを楽しむため、世界中から観光客が集まるマスツーリズムがあります。マスツーリズムは経済が活性化される一方、多くの観光客が来ることで環境問題や交通問題が起き、地域住人の生活に大きな影響を与えます。地域住民の生活や環境を守りながら発展させていく方法について考えていきます。このプログラムではスペイン・マドリッドにある国連世界観光機関(UNWTO )本部に訪れました。UNWTO ほど正しい観光情報を持つ機関は他に無く、専門家たちに授業を行ってもらいました。

APU の多くの教員は国際機関でも活動しており、私もUNWTO や国連食糧農業機関、世界農業遺産のコンサルタントに関わり、そのネットワークをフィールド・スタディでも生かしています。フィールド・スタディに参加した学生たちは、たくさんの「ここでしかできない体験」に出合います。また、その体験を共有することで地域の人々も自分たちの文化が持つ価値を再認識することができ、文化やコミュニティの発展に繋がっていくのです。

2008年APU・アジア太平洋研究科博士課程修了後、2011年よりAPU に教員として着任。2023 年4 月新設の「サステイナビリティ観光学部」で、農村開発と観光、サステイナブルツーリズムを担当。