TEACHER'S COLUMN

客観的な理論に基づいたグローバルな視点から地域の産業のあり方を問う

淵ノ上 英樹 先生

アジア太平洋学部 / 国際関係分野

#国際的視野 #地域産業のあり方

温泉は入湯するごとに、入湯税という税金が徴収されます。税額は宿泊料金や食事料金により異なりますが、仮に合計額が一人1万円だとすると、別府市での入湯税額は250円。2018年度の実績では、別府市の入湯税による税収は3億2064万円であり、その全体の86.8%が観光振興に使われています。

資本や人が、観光など一つの産業に集中しすぎると、社会変化が起きた際に大きな損害を被ってしまいます。コロナ禍での観光業の損害は、まさしくこの例です。産業に多様性を持たせることで、こうしたリスクを分散できます。このように考えると、入湯税の使途には再考の余地があるのではないでしょうか。

世界に目を向けると、例えばブラジルのマリカという小さな街は、石油資源をもとにした資金で、ベーシックインカム制度を導入しました。これは国民の最低限の生活に必要な現金を政府が定期的に支給するもので、高所得者を除く全ての家庭が対象です。またマリカだけで使える現地通貨で支給することで、ネットショッピングなどを通して大都市に吸い上げられることなく、マリカ内でお金が循環します。こうした取り組みで、コロナ禍でも街に活気が生まれています。

マリカの事例は、入湯税が財源の一部となる別府市においても参考になるはずです。こうして国際的な視野によって、私たちは新たな可能性を探求することができます。ただ、その土台となるのは、理論的・客観的なものの見方です。主観に基づいた意見には説得力がないと、あえて学生に厳しく指導することもありますが、大学は自分の未熟さを知る場所でもあります。失敗したり間違えたりしながら成長していく学生の姿は、私にとって何よりの励みです。

2008年からAPUで勤務。紛争後社会の復興や被災地復興における平和構築を研究。講義では具体的な事例を扱いつつ、学術的な理論や客観的なエビデンスを重視。