TEACHER'S COLUMN

過去を分析する会計と未来を見据えたファイナンスで事業活動の実態に迫る

川添 敬 先生

国際経営学部 / 会計・ファイナンス分野

#ファイナンス #会計 #収支

別府市の市営温泉において、2020年10月に19年ぶりの値上げが行われました。理由は赤字とされていますが、こうした施策の経済効果を評価する上で、会計やファイナンスの考え方が役に立ちます。まず会計の概念としては、お金の出し入れの結果、入ってきたお金よりも出て行ったお金の方が少なければ黒字、その逆であれば赤字となります。一見単純なようですが、実は奥が深い世界です。例えば前年に購入された回数券が翌年に使用された際の売り上げはどのように計算するのか、また温泉施設の建設費は何年に分割して費用として計上するべきなのか。このような問題について、事業の実態をより正確に表せるよう判断の基準が定められています。

会計が過去に行われたお金の出し入れに着目しているのに対して、ファイナンスは将来どのような価値が生じるのか、つまり未来に目を向けています。温泉の湧いている土地とそうでない土地とでは、当然温泉の分だけ価値に差が生まれます。そうした評価をどのように行うのかはファイナンスの一部です。また温泉旅館に投資した資金が将来得られる事業の収益の中からきちんと回収できるのかなど、未来に目を向けるためには、会計的な評価をきちんと組み合わせた上で、考えを整理していかなければなりません。会計とファイナンスは、まさに車の両輪です。

もちろん温泉はあくまで一例で、会計やファイナンスに対する理解は、私たちの個人レベルにも深く関係しています。自分のお金の出入りを把握し、将来を見据えた上で運用する。会計やファイナンスを通して分析する力が、生活にゆとりを生み出す一助となるでしょう。

日本銀行で36年間勤務。金融政策や国際関係、金融機関の監督などに従事。その間、ミシガン大学ロースクールにおいてLL.M(修士)を取得。研究テーマは通貨価値の維持、銀行システムに対する信認の維持、金融恐慌への対応策など。